日本サッカーが初めて「ワールドカップ・ベスト8」という未踏の領域に指先をかけたのが、2018年7月2日、ロストフ・ナ・ドヌで行われたベルギー戦でした。FIFAランキング3位(当時)のスター軍団を相手に、後半早々に原口元気の鋭い抜け出しからのゴール、そして乾貴士の息をのむ無回転ミドルシュートで2-0とリードを奪う奇跡的な展開を作り出します。
しかし、そこからベルギー代表のロベルト・マルティネス監督が繰り出した長身FWフェライニの投入を機に、流れは一変しました。空中戦の圧倒的な高さに屈して立て続けに2失点を喫し、同点に追いつかれます。そして運命の後半アディショナルタイム(90+4分)、歴史に残るカウンター劇「ロストフの14秒」が発生しました。
ラストワンプレーのコーナーキックと14秒の疾走
日本が得た左コーナーキック。キッカーの本田圭佑は直接ゴールを狙うかのような鋭いボールを供給しましたが、ベルギーの守護神ティボー・クルトワにキャッチされます。ここからベルギーの電光石火のカウンターが始まりました。
- 0秒〜4秒:クルトワが素早く前線のケヴィン・デ・ブライネへグラウンダーの手渡しスロー。
- 5秒〜9秒:デ・ブライネが驚異的なスピードで中央をドリブル突破。日本守備陣は懸命に戻るも追いつけない。
- 10秒〜12秒:右サイドを駆け上がったムニエへ展開。
- 13秒〜14秒:ムニエのクロスをルカクが意図的にスルーし、背後から走り込んだシャドリが無人のゴールへ流し込む。
ボールがクルトワの手を離れてからわずか14秒後、日本のゴールネットが揺れ、主審の終了ホイッスルが鳴り響きました。
なぜファウルで止められなかったのか?浮き彫りになった課題
試合後、メディアやドキュメンタリー番組(NHKスペシャル等)で最も議論されたのが、「なぜデ・ブライネがドリブルを開始した瞬間、警告覚悟の戦術的ファウルでカウンターを遮断できなかったのか」という点でした。
当時の選手たちの手記や後日の証言を総合すると、極度の疲労に加えて「延長戦に行けば勝機が薄い、このプレーで仕留めたい」という集団心理が働き、全員が前がかりになっていた実態が浮かび上がります。また、相手のスピードとコース取りが完璧であったため、「ファウルすらできない間合い」を一瞬で作られてしまったことも分析されています。世界最高峰のインテンシティと判断スピードの前に、わずかな経験値の差が残酷な結末を分けたのです。