二人の運命が交差したのは、2011年から2012年にかけてのことでした。舞台となったのは、トップアスリートが集う味の素ナショナルトレーニングセンター(NTC)のリハビリ施設です。
当時、大友愛さんは2012年ロンドン五輪を控える重要な時期でありながら、重度の前十字靭帯損傷を負い、選手生命をかけたリハビリに打ち込んでいました。一方の秋本啓之さんも、世界王者の座を勝ち取った輝かしい柔道経歴を誇りながら、足首や肩の故障に度々見舞われ、同じリハビリ室で黙々とトレーニングを重ねていました。
過酷を極めるアスリートのリハビリ現場は、華麗な栄光とは無縁の泥臭い空間です。激しい痛みに耐え、競技復帰への不安と孤独に押しつぶされそうになる極限状態の中で、二人は言葉を交わすようになります。秋本啓之さんは、どれほど苦しいトレーニングメニューであっても弱音を吐かず、前を向き続ける大友愛さんのストイックな姿勢と、周囲への細やかな気配りに心を奪われました。
「この人しかいない」と直感した秋本啓之さんは、食事への誘いを皮切りに、持ち前のバイタリティで積極的なアプローチを開始します。当初、競技と子育てに全エネルギーを注いでいた大友愛さんにとって、柔道界の第一線で戦う年下選手からの猛アタックは予想外の出来事でした。しかし、競技に対する純粋な情熱と裏表のない実直な人柄に触れるにつれ、頑なだった警戒心は少しずつ解きほぐされていきました。