市場価値が極めて高い神戸ビーフが、なぜランチタイムに限り手頃な価格帯で提供できるのか。その背景には、食肉業界特有の仕入れスキームと、飲食ビジネスにおける緻密な原価コントロールが存在します。
最大の要因は、精肉店直営店による「一頭買いシステム」です。一般的な飲食店が特定の部位(サーロインやフィレなど)を精肉業者から仕入れる場合、部位ごとの卸値マージンが上乗せされます。しかし、神戸牛の競り権を持つ精肉卸直営店は、セリ市から枝肉を一頭丸ごと買い付けるため、仕入れ単価を大幅に圧縮できます。
さらに決定的なのが「部位のアップサイクル(有効活用)」です。ディナーの高級ステーキコースでは、見栄えの良い均一なサシが入ったロースやヒレが重宝されますが、牛一頭からはスジ、ウデ、モモ、バラの切り落としなど、多種多様な部位が大量に発生します。これらの部位は味や脂の甘みにおいて最高ランクの神戸牛そのものですが、不揃いな形状のため高額ステーキとしては提供できません。これらをランチの「神戸牛切り落とし丼」「ステーキ重」「神戸牛100%ハンバーグ」へと戦略的に投入することで、破格のランチメニューが成立しています。
加えて、ランチタイムは回転率が高く、ディナーへの集客を見据えた「広告宣伝費代わりのプロモーションメニュー」として原価率を50〜60%超に設定している店舗が多い点も、ランチが安い重要な背景となっています。