物語の終盤、銭婆の家から油屋へと戻ってきた坊は、湯婆婆の前に堂々と二本足で立ち上がります。この「立ち上がる」という描写こそが、坊の決定的な自立のシンボルです。
魔法が解けて元の赤ん坊の姿に戻った坊は、千尋に試練を課そうと執念を燃やす湯婆婆に対し、毅然とした態度でこう言い放ちます。
「ばあばのケチ。もうやめなよ」
かつては湯婆婆の言うがままに引きこもり、腕をへし折ると脅して千尋を困らせていた坊が、自分の意志で母親の横暴を止めに入った瞬間でした。さらに「千尋を泣かせたらばあば嫌いになっちゃうから」と言葉を重ね、母親の歪んだ愛を逆手にとって千尋を救い出します。
外の世界を知り、他者と関わる痛冷と温もりを経験した坊は、もはや湯婆婆の過保護な箱庭に戻ることはありませんでした。彼の成長は、千尋が名前を取り戻して現実世界へ帰還する過程と見事に呼応しています。