SCP財団が保管する膨大な怪異記録の中でも、初期ナンバーであるSCP-087は別格の知名度を誇ります。舞台となるのは、とある大学の構内に存在する何の変哲もない扉の先。しかし、厚さ6センチメートルの電気めっき鋼板で作られたドアの裏側には、現代の物理法則をあざ笑うかのような特異空間が広がっています。
階段の傾度は38度。13段降りるごとに直径約3メートルの半円形をした踊り場へと到達し、そこで降下方向が180度反転します。この構造自体は一般的な非常階段と変わりません。しかし、決定的な異常性が2つ存在します。1つは、窓も照明器具も一切存在せず、強力な探照灯を持ち込んでも「わずか1.5階分(約数メートル)」先までしか光が届かないという物理的減衰現象。暗闇が光を貪り食っているかのように、被験者の視覚は常に極限状態まで奪われます。
もう1つの異常は、階段の深さです。地質学的・建築学的な調査を行っても、この階段が大学の敷地や周囲の地下水脈、地盤構造と一切干渉していないことが判明しています。外部からの構造的限界を無視して地下数千メートル規模まで垂直降下が継続する構造は、空間そのものがねじ曲がった非ユークリッド的異常地帯であることを示しています。
指定されているオブジェクトクラスは「Euclid(ユークリッド)」。これは破壊的な殺傷力を意味するのではなく、「現在の財団の科学力では完全に性質を解明・予測できず、恒久的な封じ込めプロトコルの維持に細心の注意を要する」という性質を表しています。一度足を踏み入れれば、戻ることすら困難になる精神的・空間的迷宮――それが吹き抜けた階段の基礎構造です。