この抗議騒動の中で、最も理不尽な犠牲を強いられているのが民間の狩猟者組織である猟友会です。多くの国民に誤解されていますが、猟友会の会員は公務員でも専業の害獣駆除業者でもありません。大半が農業や自営業などを本業に持ち、地域貢献の精神から自治体の「鳥獣被害対策実施隊員」などの非常勤公務員として委嘱を受けている一般の民間ボランティアに近い存在です。
現場に出動したハンターに支払われる日当は、自治体によって異なるものの数千円から1万数千円程度にとどまります。銃器の維持費、高額な弾薬代、自前の車両燃料費を差し引けば、手元に残る金額はごくわずかです。それどころか、クマと至近距離で対峙し、返り討ちに遭えば重傷や死に至る生命の危険を伴います。命を削りながら地域住民の盾となって引き金を引いた結果、待っているのは賞賛ではなく、自宅や職場を特定されて浴びせられる激しい非難の電話や嫌がらせの手紙です。
これに追い討ちをかけているのが、司法と行政による法執行の矛盾です。北海道砂川市で発生した事例では、市職員と警察官の立ち会い・要請のもとで危険なクマを射殺したハンターが、後に「背後に建物があった」「跳弾の危険があった」として警察から銃所持許可を取り消されるという前代未聞の事態が発生しました。長年にわたる行政訴訟を経て現場の判断の正当性が争われるなか、現場のハンターたちの間には「要請通りに撃てば罪に問われ、撃たなければ住民が襲われ、駆除すれば全国から叩かれる」という絶望的な無力感が蔓延しました。
その結果、現実化したのが猟友会への苦情と辞退問題です。北海道奈井江町をはじめ、各地の猟友会支部が自治体からの有害鳥獣駆除の出動要請を正式に辞退・拒否する動きが相次ぎました。「身の危険を冒し、理不尽なバッシングを受け、法的リスクまで背負って引き受ける道理はない」という現場の判断は、極めて論理的かつ当然の帰結といえます。
全国の狩猟免許保持者のうち60歳以上が約7割を占め、平均年齢は67歳を超えています。若手の新規参入が遅々として進まない背景には、経済的メリットの欠如だけでなく、社会からの敬意が失われ、不当な攻撃対象とされる現状があります。現場の担い手が引退すれば、市街地にクマが侵入した際に誰一人として銃を持って立ち塞がることができなくなるという、致命的な防衛の空白期が目前に迫っています。