喪中の正月の過ごし方において、例外なく「やってはいけない」と一致しているのが、門松、しめ飾り、鏡餅といった正月飾りの設置です。なぜ正月飾りだけはこれほどまでに厳しく禁忌とされるのでしょうか。その背景には、日本固有の民俗信仰と神道の死生観が深く関わっています。
古来、日本の正月行事は、新年の初めに各家庭へやってくる「年神様(歳徳神)」をお迎えし、新しい年の豊作と命の力を授かるための神事でした。
門松は、空から降りてくる年神様が道に迷わないための「目印」であり、神様を迎え入れる依代(よりしろ)です。
しめ飾り(注連縄)は、その家が神様をお迎えするのにふさわしい清浄な結界であることを示す標識です。
鏡餅は、家に上がられた年神様が宿る「御座所(神座)」そのものを意味します。
しかし、身内に不幸があった家は、死によって家族の活力が落ち込み、神聖な神を祀る力を失った「気枯れ(穢れ)」の状態にあると考えられます。神道において神は極めて潔癖であり、穢れを何よりも忌み嫌います。そのため、穢れの残る家に年神様を招き入れることは神様に対して大変な不敬に当たり、神事そのものが成立しないと解釈されてきました。
この民俗学的な文脈があるからこそ、玄関先に門松やしめ飾りを出すこと、居間に鏡餅を飾ることは、喪中の家では固く禁じられているのです。また、自宅に神棚がある場合は、神様が穢れに触れないよう、神棚の正面に半紙(白紙)を貼って扉を閉ざす「神棚封じ」を忌中の期間中に行います。神棚封じは、忌明けとなる四十九日(または五十日祭)が過ぎるまで外してはなりません。