現代の自動車に標準搭載されている安全装置に関して、Web上やSNSのドライバーコミュニティでは重大な誤解が散見されます。その筆頭が「ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)がついていれば停止距離が短くなる」という言説です。
ABSの本来の目的は、フルブレーキ時にタイヤが完全にロック(回転停止)してステアリング操作が効かなくなるのを防ぎ、障害物をハンドル操作で回避できるようにすることです。タイヤの回転を断続的に制御するため、乾燥したアスファルト路面では安定した制動力を発揮しますが、砂利道・深雪路・濡れたマンホールの上などでは、タイヤが路面を削り込む効果が得られず、かえって制動距離が伸びるケースが存在します。
また、ドライバー側の要因による「空走距離の肥大化」も現代特有の盲点です。カーナビの凝視やスマートフォン通知への一瞥(ながら運転)、疲労や睡眠不足がある状態では、人間の反応時間は通常の0.75秒から1.5秒〜2.0秒以上へ容易に倍増します。時速60km走行時に反応が1秒遅れれば、それだけで空走距離が約17m延長され、どのような先進安全ブレーキを搭載した車両であっても事故を物理的に回避できなくなります。