作中で「もののけ姫」と呼ばれるサンの正体は、純血の人間です。設定年齢は15歳(アシタカは17歳)。彼女が山犬の巣窟で育ち、人間を憎悪するようになった背景には、人間の身勝手さと残酷な生贄の風習がありました。
公式設定資料や絵コンテ集の記録によると、サンの実の両親はかつてシシ神の森を切り拓こうとした製鉄民(タタラ場の前身となる人間たち)でした。神聖な森を侵し、怒り狂った山犬の神・モロの君に襲撃された際、実の親たちは自らの命惜しさに赤子であったサンをモロの君の鼻先に投げ捨てて逃走したのです。
モロの君はその時の経緯を、劇中でアシタカに対して冷徹に語り聞かせています。
「いけにえとして投げ出された赤ん坊を、食べずに育ててしまった。サンは我が一族の娘だ。森と生き、森と死ぬ」
本来であれば即座に喰い殺されるはずだった赤子は、モロの君の気まぐれと母性によって命を救われました。しかし、それはサンにとって永遠の苦悩の始まりでもありました。人間社会からは生贄として捨てられ、山犬の世界では決して本物の山犬にはなれないという、逃れようのない「境界線(マージナル)」の宿命を背負わされたのです。