悲壮感や痛覚といった明確な入力がないにもかかわらず訳もなく涙が出る原因の核心には、脳内の情動制御システムの機能不全が存在します。通常、恐怖や不安などの感情を生み出す大脳辺縁系の「扁桃体」は、理性を司る「前頭前野」によって適切にブレーキがかけられています。しかし、長期間にわたる過度なプレッシャーや睡眠不足、人間関係の軋轢に晒され続けると、このブレーキ機能が物理的に摩耗します。
特に危険なのが、強いストレスを日常的に耐え忍んでいる真面目な人ほど陥りやすい「感情麻痺」のプロセスです。過酷な環境に適応しようと心が痛みを遮断(解離)した結果、自覚的な「辛さ」を感じなくなっているにもかかわらず、自律神経系と内分泌系は限界まで交感神経優位に傾き続けます。その歪みが臨界点を超えた瞬間、意識を通さず身体がダイレクトに涙腺を開放する現象、いわば「感情の漏出」が引き起こされるのです。
さらに神経伝達物質の観点では、情動を安定させる「セロトニン」の枯渇が決定打となります。太陽光を浴びる機会の減少や過密スケジュールによるセロトニン不足は、涙もろさを急激に加速させます。本人が「まだ頑張れる」と頭で考えていても、生理学的な身体システムはすでに心の限界サインを高らかに鳴らしている事実に目を向けなければなりません。