「薄いのがパンケーキで、分厚いのがホットケーキ」という説明をネット上で見かけることがありますが、製菓科学の視点から見るとこれは完全な誤解です。厚みを決定づけているのは呼び名の違いではなく、生地の比重、水分の粘度、そしてベーキングパウダーと膨らみ方の違いです。
ホットケーキが誰でも安定して厚くふっくら焼き上がる理由は、ミックス粉に含まれる膨張剤(ベーキングパウダー等)の配合比が絶妙に設計されているためです。加熱時に炭酸ガスを放出し、気泡を生地内部に閉じ込めることで縦方向の膨張を促します。ここで重要なのが、グルテンの形成度合いです。生地を泡立て器で過剰に混ぜ合わせると、小麦粉の中のたんぱく質(グルテニンとグリアジン)が結合して強い網目構造を作り、焼き上がりがゴムのように硬くなってしまいます。プロの料理家が「粉っぽさが少し残る程度にさっくり混ぜる」と口を揃えるのは、適度な気泡を逃さず柔らかい厚みを保つための物理的な鉄則です。
対して、2010年代以降に外食市場を席巻した極厚の「スフレパンケーキ」は、ベーキングパウダーの力だけに頼っていません。卵白をしっかりと泡立てたメレンゲを生地に抱き込ませ、オーブンやスチーム付きの特注鉄板で蒸し焼きにすることで、厚みがありながら口の中で溶けるような軽やかなテクスチャーを実現しています。つまり、厚いからホットケーキ、薄いからパンケーキという単純な形状論は成り立たず、「膨らませるメカニズムが炭酸ガス主体か、気泡化されたメレンゲ主体か」という技術的アプローチの違いに着目するのがプロの視座です。