球速にまつわる議論では、SNSやネット掲示板を中心にいくつか根強い誤解や都市伝説が語り継がれています。メディアの報道姿勢も含め、検証すべき代表的な盲点を解き明かします。
誤解1:「昔のスピードガンと今の計測器は同じ数値を指している」という錯覚
「昭和や平成初期の150キロの方が、今の160キロより速く見えた」という声を耳にすることがあります。実はこれには測定機器の測定ポイントという技術的な構造改革が関係しています。かつてのスピードガンは、ボールが打元に届く「終速」に近い位置、あるいはマウンドとホームの中間付近を計測していました。これに対し、現在のMLBの「Statcast」やNPBで導入が進む「ホークアイ(Hawk-Eye)」は、投手の指先から離れた瞬間(初速)を極めて正確にトラッキングしています。ボールは空気抵抗によってベース到達時までに約8〜10%減速するため、同一の投球であっても測定器の進化によって表示される数字そのものが過去より3〜5km/hほど高く出やすい環境が存在します。
誤解2:「102マイルなら、どの投手の球も同じように打ちにくい」という嘘
スピードガンの数字が同じ102マイルであっても、打者が感じる威圧感には大きな隔たりがあります。その決定打となるのが、ボールの回転数(スピンレート)と回転軸、そして垂直アプローチ角度(VAA)です。同じ時速164キロでも、回転数が少なくシュート回転して沈む球はバットに当てられやすい一方、毎分2,400回転を超える強いバックスピンを伴う球は、重力に逆らって浮き上がるような「ホップ成分」を帯びます。佐々木朗希投手のストレートが空振りを量産できるのは、164キロという純粋な出力に加えて、極めて高いスピン効率が組み合わさっているからです。