ネット上の情報やセルフヘルプ本において頻繁に見られる最大の誤解は、「認知の歪みを完全に消し去り、常に前向きなポジティブ思考を持たなければならない」という強迫観念です。この極端なアプローチは、かえって自己批判を悪化させる危険性を孕んでいます。
そもそも、人間が進化の過程で認知の歪み(バイアス)を獲得した背景には、過酷な自然環境を生き延びるための「生存戦略」という側面がありました。例えば、藪が揺れたときに「猛獣がいるかもしれない」と最悪の事態を先読みする(結論の飛躍・破滅化)個体の方が、警戒を怠った個体よりも生存確率が高かったのです。現代においても、「すべき思考」や完璧主義的な傾向は、緻密な業務の遂行や危機管理において一定の適応価値を持っています。
したがって、目指すべきゴールは歪みを完全に消滅させることではありません。自らの思考に偏りがある事実を認知した上で、状況に応じて「思考のバリエーションを増やすこと」が真の目的です。「絶対にこうでなければならない」という単一のレールから、「そうであれば望ましいが、別の道もある」という柔軟なしなやかさを手に入れることこそが、精神的なレジリエンス(回復力)を高める本質です。