「初夏を迎える5月の魚がなぜこれほどまでに旨いのか?」――その疑問に対する水産生物学的な回答は、「餌生物の爆発的増加」と「産卵サイクルに伴う生理現象」に集約されます。
春から初夏にかけての日照時間の増加と水温の上昇は、沿岸域の植物プランクトンを大増殖させ、それを食す動物プランクトンや小魚(キビナゴやイワシの稚魚)の群れを生み出します。回遊魚である鰹や沿岸に居着くアジは、この豊かな海で豊富な餌を活発に捕食します。特に初鰹の旬と特徴を語る上で欠かせないのが、北上期ならではの運動量です。餌を求めて外洋を高速で泳ぎ続ける初鰹は、筋肉中のミオグロビンやグリコーゲンが豊富で、身が引き締まり、一切の臭みのない爽やかな酸味と独特の芳醇な風味を生み出します。
一方のマアジの旬と選び方においても、5月は明確な転換点です。冬場のマアジは水温低下に伴い活動が鈍化し、身が細りがちですが、5月に入ると沿岸の根(岩礁帯)周りに居着く「根付きアジ(黄金アジなど)」が急速に脂を蓄えます。5月のマアジの脂質含有量は8〜12%前後に達し、酸化しやすい不飽和脂肪酸(EPA・DHA)が新鮮な状態で身全体に均一に分散するため、口に入れた瞬間に脂のくどさを感じさせず、サラリととろけるような食感を実現するのです。
さらに5月が旬の魚と栄養効能の観点からも、この時期の魚介類は完璧な栄養構成を誇ります。初鰹には初夏の疲労回復を強力に後押しするビタミンB群や鉄分、タウリンが豊富に含まれ、アジや白身魚には良質な必須アミノ酸が凝縮されています。気候の変動で自律神経が乱れやすい初夏において、これら旬魚の摂取は理にかなった食養生でもあります。