1928年に生まれ、1982年に54歳の若さで病没した十代目金原亭馬生。その存在は、今なお落語玄人や演芸評論家の間で「至高の芸術家」として神格化されています。十代目の芸の真骨頂は、押しつけがましさの全くない、ふわりとした「軽み」と「艶(つや)」にありました。
得意ネタとして名高い演目には、以下のような不朽の名演が並びます。
- 『笠碁』:囲碁仲間である二人の老人の意地の張り合いと愛嬌を、絶妙な間と息遣いで描き出した最高傑作。
- 『目黒のさんま』:殿様の浮世離れした上品さと、庶民のさんまの香ばしさを対比させる見事な描写力。
- 『船徳』:若旦那の頼りなさと夏の暑さ、大川の涼風が肌に伝わるような洒脱な語り口。
- 『鰍沢』『淀五郎』:人間の業や情念を冷徹かつ情感豊かに描いた迫真のドラマ。
十代目は落語のみならず俳画や書画にも非凡な才能を示し、その飄々とした佇まいは「歩く江戸風俗」と称されました。50代前半という円熟期に差し掛かった矢先、癌によって早逝したことは、昭和落語界最大の損失の一つとして語り継がれています。