「毎日欠かさず朝晩に水をあげていたのに、秋に掘り起こしたら細い根っこしか出てこなかった」――家庭菜園のコミュニティや園芸相談窓口に毎年大量に寄せられるのが、この切実な声です。一般的なトマトやナス、キュウリなどの果菜類を育てた経験がある人ほど、土が乾くのを恐れて頻繁にジョウロを手にしてしまいます。しかし、サツマイモ栽培において、その親切心は命取りになります。
サツマイモにおいてさつまいも水やりあげすぎが引き起こす最悪の現象が「つるボケ」です。水分と土中の窒素分が過剰に供給されると、植物体は「過酷な環境に備えて根にデンプンを蓄える(芋を肥大化させる)」生存戦略を放棄し、「光合成器官である葉とつるをどこまでも伸ばす」栄養成長へとエネルギーを全振りしてしまいます。結果として、地上部はジャングルのように青々と茂っているにもかかわらず、地中には鉛筆ほどの太さの繊維根しか残らないという悲劇が生じます。
さらに土壌の排水性が悪い環境で水を与え続けると、土中の酸素濃度が著しく低下し、さつまいも根腐れ症状が発生します。根腐れを起こすと、地下部の塊根が黒褐色に変色して異臭を放ち、やがて地上部の葉が不自然に黄色く変色して株全体が立ち枯れます。サツマイモ栽培における「水やり不要」という言葉は、完全な放置を意味するのではなく、「過剰な過湿ストレスを意図的に排除せよ」という強い警告なのです。