映画『戦場のメリークリスマス』を映画史上の金字塔たらしめている最大の要因は、坂本龍一とデヴィッド・ボウイという、当時すでに世界的アイコンであったふたりの圧倒的なカリスマ性です。
本作の映画音楽を手掛けた坂本龍一は、出演依頼を持ちかけてきた大島渚監督に対し、「音楽も自分に任せてくれるなら出演する」という大胆な条件を突きつけました。大島監督はその場で即答し、映画音楽の経験がなかった坂本に全権を委ねました。こうして誕生したメインテーマ『Merry Christmas, Mr. Lawrence』は、ガムラン音楽に影響を受けたオリエンタルな音階と、当時最先端だったサンプラー「フェアライトCMI」を駆使した透明感あふれるシンセサイザーサウンドが融合した名曲です。
坂本自身が生前の回顧録で明かしている通り、南太平洋のラロトンガ島で行われた酷暑のロケ地とは対照的に、あえて「雪の降るクリスマス」を連想させる冷涼で崇高な響きを追求したことが、作中の泥臭い暴力描写を神聖な領域へと昇華させました。
また、世界中の観客の息を呑ませたのが、セリアズがヨノイの頬に口づけをするキスシーンです。このシーンの撮影現場は異様な緊張感に包まれていました。大島監督の演出指示は極めて抽象的であり、西洋の「自己犠牲(アガペー)」と日本の「切腹に象徴される滅私奉公」という相容れない美学が、セリアズの唇とヨノイの動揺した眼差しを通じて火花を散らしました。
セリアズのキスは性愛的な挑発にとどまらず、暴力でしか秩序を維持できなくなった日本軍のシステムを無力化する「究極の非暴力の抵抗」でした。ヨノイを演じる坂本の端正な顔立ちが恐怖と陶酔で歪む瞬間は、映画史に残るエロティシズムと精神の衝突として現在も語り草となっています。