ネット上の掲示板やSNS、知恵袋の投稿を丹念に追跡調査すると、カラー剤を切り替える瞬間に多くの生活者が激しい精神的葛藤を抱えている実態が浮き彫りになります。そこには、単なるヘアスタイルの変更にとどまらない、自己イメージの崩壊に対する恐怖が存在します。
大手コミュニティサイトには、次のような生々しい告白が溢れています。
「ドラッグストアの白髪染めコーナーに立ち寄り、棚から箱を取る手が震えた。自分が『白髪染めを使う側の人間』になったという現実を認めるのが辛くて、結局その日はおしゃれ染めの最も暗い色を買って帰ってしまった」(41歳・女性・事務職)
「美容師さんに『そろそろ白髪染めのお薬を少し混ぜておきますね』と小声で宣告されたときの衝撃が忘れられない。まるで若さの賞味期限が切れたと公式に宣告されたような気分だった」(38歳・男性・営業職)
こうした白髪染め移行期の悩みとネットの反応の背景には、日本社会に根強く残る「エイジズム(年齢規範)」と、若さに対する過度な強迫観念が横たわっています。白髪染めという言葉そのものが帯びている「老い」「所帯じみた生活感」というネガティブな記号が、当事者の自尊心を激しく揺さぶるのです。
さらに、この精神的な躊躇が「市販セルフカラーの失敗」という実害を加速させています。美容室でカミングアウトすることを恐れ、自宅の浴室で手軽な泡カラー等に手を出す人が後を絶ちません。しかし、美容院と市販セルフカラーの違いは圧倒的です。市販のセルフカラー剤は、「極太の剛毛白髪でも誰でも一発で染まる」ように、薬機法の許容限界に近い強アルカリと高濃度オキシ(過酸化水素)が最初からワンボトルに充填されています。
対して美容室では、新生部の白髪には染料濃度を高くした低アルカリ剤を、すでに染まっている中間から毛先にはトリートメント効果の高い微アルカリ剤を塗り分ける「ゾーンコントロール」を行います。自宅での一括塗布を繰り返した結果、毛先がバサバサに断裂し、頭皮が慢性的な炎症を起こして駆け込んでくる顧客が、サロンの相談件数上位を占め続けています。