あの日、スタジアムを埋め尽くした超満員のファンが目撃したのは、強烈な打撃と冷静なリードで巨人を支え続けた大強打者の等身大の姿だった。阿部慎之助引退セレモニーのクライマックス。マイクの前に立った彼のもとへ届いたのは、長年ともに歩んできた娘からの手紙だった。
「パパ、お疲れ様でした」。シンプルでありながら、重みのある言葉。連戦につぐ連戦、遠征で家を空ける日々。怪我に苦しみ、プレッシャーと戦う父の背中を、娘はずっと見守ってきた。「家にいるときは、いつも優しいパパだった」。球場で見せる鬼の顔とは異なる、家庭での温かな眼差し。そのギャップと感謝が溢れ出た手紙が読み上げられた瞬間、百戦錬磨のベテランの目から大粒の涙がこぼれ落ちた。