かつて江戸時代の大相撲では、贔屓の力士が勝利した際に自分の羽織や煙管を土俵へ投げ込む「投げ物」という風習が存在した。翌日、力士側がその品物を届けることで祝儀(ご祝儀金)を受け取るという、粋なファン心理から生まれたシステムである。明治以降にこの習慣が禁止されると、手元に残された手頃なアイテムとして「座布団」がその役割を代替するようになった。
現在知られる「座布団の舞」は、単なる応援ではない。格下が格上を打ち破る大番狂わせ、とりわけ横綱が敗れる金星の瞬間に炸裂するカタルシスの発露だ。マス席に座る観客が、驚きと興奮、そして時には横綱に対する不甲斐なさへの叱咤を込めて、一斉に敷物を放り投げる。この集団心理が生み出す光景は、長い歳月をかけて大相撲の劇的なクライマックスを彩る視覚的アイコンとして定着していった。