物語の冒頭から中盤にかけて、ヨロコビは「ライリーを常に幸せにする」という使命感から、カナシミをコントロール盤から遠ざけ、時にはチョークで描いた円の中に閉じ込めようとさえしました。しかし、この「ポジティブ至上主義」こそがライリーの感情崩壊の引き金となります。カナシミがなぜ必要だったのか、その答えは終盤の伏線回収となるラストシーンで鮮やかに明かされます。
ミネソタ時代のホッケーの試合でシュートを外して落ち込んでいたライリーの記憶。ヨロコビはこれを「チームメイトや両親が駆け寄って胴上げしてくれた最高の思い出(黄金色の記憶)」だと認識していました。しかし、その記憶の直前にあったのは、ライリーが悲しみに暮れて涙を流す姿でした。「悲しみを表に出したからこそ、周囲がそれに気づき、支えの手を差し伸べてくれた」という事実をヨロコビが悟った瞬間、カナシミの真の役割が浮き彫りになります。
心理学において、悲しみは単なるネガティブな感情ではなく、「喪失に対する適応反応」および「社会的援助を引き出すシグナル(求救信号)」と定義されています。制作陣は感情心理学の世界的権威であるポール・エクマン博士とダッチャー・ケルトナー博士を監修に迎え、悲しみが持つ「他者との結びつきを促す力」を物語の根幹に据えました。ライリーが実家から逃げ出すバスを降り、両親の前で「ミネソタが恋しい、辛い」と涙をこぼしたとき、家族の絆はより強固なものへと再生したのです。