関節を曲げ伸ばしした際に痛みがないにもかかわらず音が鳴る現象には、関節運動学的に明確な物理メカニズムが存在する。もっとも代表的な要因として挙げられるのが、膝関節のキャビテーション現象だ。膝関節は関節包という袋に包まれており、内部は関節液(滑液)で満たされている。関節が急激に動くことで関節内の圧力が局所的に低下すると、滑液中に溶け込んでいた気体が気泡化し、それが瞬時に弾ける際に「ポキッ」という衝撃音を放つ。指の関節を鳴らす現象とまったく同じ原理であり、単発で鳴り、直後に引っかかりや鈍痛を伴わないのであれば、直ちに病的なものと断定されるわけではない。
次に頻度が高い膝がポキポキ鳴る痛くない理由は、靭帯や腱が骨の突起部を乗り越える際に生じる摩擦音だ。膝周囲には大腿四頭筋腱や膝蓋靭帯、腸脛靭帯などが複雑に行き交っている。骨格のわずかな歪みや筋緊張によって腱の走行軌道がわずかにズレると、屈伸のたびにピンと張った弦が弾かれるように乾いた音を発生させる。
ここで重要な医学的事実は、関節軟骨そのものには痛覚神経が存在しないという点だ。軟骨がすり減り始めても神経が通っていないため、骨同士が直接ぶつかり合うステージに進むまで激痛は生じない。つまり、「痛くないから完全に健康である」という推論は、解剖学的には完全に破綻している。無痛のクリック音こそが、関節アライメントの乱れを告げる最初の物理的振動である。