ネット上で「虫歯放置死亡事例」を検索しても、厚生労働省の公式死因統計の中に「虫歯」という直接的な項目を見つけることは困難です。この事実が、「虫歯で死ぬなんてデマではないか」という誤解を一般層に生み出す最大の原因となっています。
日本の医療制度において、死亡診断書に記載される傷病名は厳格なルールに基づいています。虫歯から細菌が全身に回り死亡した場合、直接死因欄には「敗血症性ショック」「急性呼吸不全」「急性心不全」などが記載され、その原因欄に「縦隔炎」や「感染性心内膜炎」と書かれます。さらにその根本原因として「う蝕(虫歯)」や「根尖性歯周炎」がカルテに記録されていたとしても、統計上の大分類では「循環器系の疾患」や「感染症」として集計されてしまうのです。
この統計上の不可視性が、有名人の訃報における憶測を助長しています。例えば、ある著名人が「敗血症」や「急性心不全」で急逝した際、メディアの速報では根本的な感染源まで触れられないことが一般的です。その結果、「普段から歯の健康を気にしていなかった」「虫歯を放置していたらしい」という周辺情報だけが切り取られ、ネット上で「実は虫歯が死因だった」というストーリーが独り歩きを始めます。噂のすべてが真実ではないものの、「虫歯菌が敗血症や心不全を誘発して人を死に至らしめる」という医学的リスクそのものは厳然たる事実であり、決して軽視してはならない教訓を含んでいます。