「チワワが警察犬になれるはずがない」――そうした世間の常識を覆した決定的な出来事が起きたのは、2010年11月のことでした。奈良県桜井市で開催された奈良県警の「嘱託警察犬審査会」において、7歳のメスのロングコートチワワ「モモ」(体重約3kg)が見事に合格を果たしたのです。
当時、国内外のメディアはこのニュースを一斉に速報しました。米国のCNNや英BBC、ロイター通信といった世界的通信社が「世界初のチワワ警察犬が日本で誕生」と大々的に報道。動画共有サイトやSNSを通じて、シェパードやゴールデンレトリバーなどの巨躯に混ざり、凛々しい表情で審査に挑むモモの姿が世界中へ拡散されました。
モモが挑んだのは、犯人を取り押さえる警備・警戒部門ではなく、災害や遭難時に要救助者を探し出す「捜索救助の部」です。審査内容は極めて厳格であり、規定の範囲内に隠された衣服の匂いをもとに、5分以内に倒れている人や対象物を特定・発見しなければなりません。モモは抜群の集中力を発揮し、わずか数分間で的確に対象を発見。指導手の指示に忠実に従う高い服従性と作業意欲を証明し、審査員の満場一致に近い評価を得て正規の嘱託警察犬の座を射止めました。
気になるその後の歩みと現在の姿について、取材記録や関係者の証言を辿ると温かな事実が浮かび上がります。モモは2011年1月から奈良県警の嘱託警察犬として1年間の任期を務め、捜索出動への待機や警察の広報イベント、防犯指導の現場で多大な貢献を残しました。激しい現場活動による肉体疲労を考慮し、任期満了後は後進に道を譲る形で現場を一線から退き、飼い主の温かい愛情に包まれながら穏やかな余生を過ごしました。一般的なチワワの平均寿命(15歳前後)を全うし、現在は天国へと旅立っていますが、警察犬の可能性を広げたパイオニアとしての足跡は今も警察関係者の間で語り継がれています。