かつてはフォルクスワーゲン(ビートル)やアルファロメオ、シトロエン、BMW(二輪)など、多くのメーカーが水平対向エンジンを採用していました。しかし時代の変遷とともに、乗用車市場の主流は「直列エンジン」と「V型エンジン」へと完全にシフトしました。その背景には、自動車産業の構造変化と極めて合理的な技術的理由が存在します。
最大の障壁となったのが「製造コストの高さ」と「モジュール化の難しさ」です。直列エンジンであればシリンダーヘッドやカムシャフトは1組で済みますが、水平対向エンジンは左右にシリンダーが分かれているため、ヘッド周りのパーツやバルブ駆動機構が2系統必要になります。部品点数が増加し、組み立て工程も複雑化するため、1台あたりの製造原価が跳ね上がります。
さらに、現代の自動車開発で不可欠となった「衝突安全基準の強化」と「エンジンルームのスペース効率」が撤退に拍車をかけました。水平対向エンジンは横幅が非常に広いため、前輪の切れ角を確保しにくく、サスペンション形式の選択肢が制約されます。多種多様な車種間でエンジンを共用するプラットフォーム統合が進むなかで、汎用性に乏しい水平対向は合理化の波に飲み込まれていきました。