クィア映画における美意識の転換点として、映画監督セリーヌ・シアマの功績を挙げないわけにはいかない。彼女が手掛けた『燃ゆる女の肖像』は、男性的な欲望のまなざし(メイル・ゲイズ)を完全に解体し、互いを見つめ返し対等に理解し合う「女性のまなざし(フィメール・ゲイズ)」の圧倒的な美しさを世界に提示した。
18世紀の孤島を舞台に、画家と貴族の娘が紡ぐ親密な時間。シアマ監督が描いたのは、暴力や搾取を排した純粋な共鳴と知性の交歓だった。この作品以降、女性同士の恋愛を描くスクリーン上のトーンは劇的に変化した。観客はただ物語を消費するのではなく、画面に満ちる静謐な空気感や細やかな感情の機微に息を呑み、自らの感性を研ぎ澄ます体験を得るようになったのだ。