本作を語る上で絶対に外せないのが、主演を務めたキム・スヒョンの凄まじい表現力だ。北朝鮮エリート将校リュハンという冷徹な顔と、緑のジャージを着て鼻水を垂らす愚鈍な男ドングというふたつの人格。
彼はこの極端な二面性を、目つきひとつ、身体の重心の置き方ひとつで鮮やかに演じ分けた。階段から転げ落ちるコミカルな身体を張った演技を見せた次の瞬間には、鋭く研ぎ澄まされた眼光で敵を制圧する。この劇的なギャップこそが、映画全体の推進力となっている。
ダイナミックなスパイアクションの疾走感と、哀愁漂うヒューマンドラマの叙情性。この対極にある2つの要素が見事に調和しているのは、間違いなく彼の演技的才能によるものだ。スクリーンに映し出される彼の瞳には、言葉以上の感情が溢れている。