公開から長きにわたる歳月が流れた現在も、画面の隅々に配された美術設定には驚くべき発見が隠されている。劇中で主人公のキキが居候することになるこの店舗の構造には、当時の作画スタッフによる徹底したリアリティの追及が込められていた。
とりわけ印象的なのは、店舗と奥の居住エリア、そしてパンを焼く大きな窯の位置関係だ。使い込まれた調理器具の傷や、早朝の光が差し込む窓の配置に至るまで、実際に職人が生活している匂いが画面越しに立ち上ってくる。スタジオジブリの制作チームは、単なるフィクションの背景としてではなく、「ここで誰かが毎朝生地をこね、生活を営んでいる」という生々しい息遣いを画面に焼き付けた。監督を務めた宮崎駿が求めたのは、魔法という非現実的な要素をしっかりと地上に繋ぎ止めるための、妥協なき生活感の構築だったのだ。