ヤギに対する恐怖は、生物学的な理由だけでなく、人類が積み重ねてきた文化的・宗教的背景にも根深く刷り込まれている。特に西洋文化圏において、ヤギは古くから「邪悪」「不吉」「欲望」の象徴として扱われてきた。
キリスト教の聖書(マタイによる福音書)では、最後の審判において人々が選別される際、従順な羊が「救われる正しい者」として右に置かれるのに対し、気まぐれで頑固なヤギは「呪われた罪人」として左に分けられる。この記述を契機に、ヤギは異端や悪のシンボルとして位置づけられるようになった。
19世紀の魔術師エリファス・レヴィが描いた有名な悪魔「バフォメット」の姿も、ヤギの頭部と角を持ち、背中に黒い翼を備えた姿で描かれている。さらに黒毛のヤギは「黒魔術」や「悪魔崇拝(サタニズム)」の儀式と結びつけられ、映画やホラーゲームでも恐怖を演出するアイコンとして定着した。私たちがヤギに対して感じる底知れぬ怖さの裏には、こうした数百年にわたる文化的刷り込みが存在する。