真夏の昼間に猛威を振るうアブラゼミやクマゼミの大合唱とは対照的に、ヒグラシは太陽が沈みかける黄昏時や、夜が明けきらない早朝の静寂を狙ったかのように鳴き始めます。この習性には、「照度(光の強さ)」と「気温」が極めて緻密に作用しています。
昆虫行動生理学の観察データによると、ヒグラシの発音活動のトリガーとなる決定的な要因は急激な照度の低下(夕方)または照度の上昇(早朝)です。具体的には、照度が約100〜1,000ルクス程度まで落ち込む薄暮の時間帯に、雄の神経節が刺激されて一斉に鳴き交わす「合唱性」が発動します。日中でも急な雷雨や厚い雨雲によって周囲が暗くなると、夕方と錯覚して突如として鳴き始める現象が確認されるのはこのためです。
さらに重要なのが気温の制約です。近年の猛暑日(35℃以上)が続く環境下では、多くの昆虫にとって過度な体温上昇は死活問題となります。ヒグラシが最も活発に活動できる適温領域はおおむね24℃から28℃前後とされており、日中の猛烈な日射熱を避け、気温が程よく落ち着く朝夕の薄暗がりこそが、彼らにとってエネルギー消費を最小限に抑えつつ配偶行動に専念できる絶好のタイムウインドウとなっています。