結論から申し上げますと、『まちカドまぞく』の本編において千代田桃が「シャミ子が悪いんだよ」と発言したシーンは存在しません。コミックス全巻のコマをくまなく精読し、アニメの全エピソードの字幕や台本データを照合しても、該当するセリフは1文字たりとも登場しないのです。
では、なぜこれほど強烈にキャラクターの代名詞として広まったのでしょうか。時計の針をアニメ第1期が放送された2019年夏(7月〜9月クール)へと巻き戻してみましょう。当時、匿名画像掲示板「ふたば☆ちゃんねる(虹裏)」や「5ちゃんねる」のアニメ実況板では、貧乏な魔族の少女・吉田優子(シャドウミストレス優子、通称シャミ子)と、彼女をなぜか手厚く鍛え導く筋骨隆々な魔法少女・千代田桃の特異な関係性が熱烈な注目を集めていました。
作中の桃は、感情表現が極めて乏しくクールな性格でありながら、シャミ子の虚弱体質や生活困窮を見過ごせず、トレーニングを課したり高栄養の食事を与えたりと、不器用かつ過保護な距離感で接します。この「言葉少なだが行動が重い」「どう見ても相手に執着している」という原作特有の絶妙な湿度を、ネット住民たちが面白おかしく増幅させた結果生まれたのが、いわゆる「桃怪文書」と呼ばれる二次創作テキストでした。
「こんなに鍛えさせるのも、怪我をさせるのも、私がこれほど執着してしまうのも、すべてはシャミ子が可愛いのがいけない……シャミ子が悪いんだよ」――そんな、責任転嫁と歪んだ愛情が混ざり合った妄想セリフが書き込まれた瞬間、ファンの琴線に激しく触れました。桃の低音ボイスや物静かな口調で脳内再生があまりにも容易だったことから、瞬く間に「桃が本当に言っていそうな台詞」として一人歩きを始めたのです。