世界遺産への登録は莫大な観光経済効果をもたらす一方、近年は地域社会の崩壊を招く「オーバーツーリズム(観光公害)」という深刻な副作用を顕在化させています。危機遺産リスト登録国の現状とニュースを検証すると、保全の失敗によって遺産資格そのものが剥奪の危機に瀕する事例が後を絶ちません。
現地取材班が訪れたイタリア・ヴェネツィアでは、日帰り観光客に対する入場料徴収制度が導入されたものの、観光客の過剰な流入による住民流出と生活環境悪化は依然として続いています。地元住民の男性はこう心情を吐露しました。
「世界遺産という看板がついたことで、街は巨大なテーマパークに変貌してしまった。家賃は跳ね上がり、伝統的な商店は土産物店に駆逐された。文化遺産を守るための登録が、そこに息づく人間のコミュニティを破壊しているのではないかという葛藤が常にあります」
オーストリアの「ウィーン歴史地区」は高層建築建設計画によって危機遺産リストに留まり続け、ウクライナの「オデーサ歴史地区」は武力紛争による被害から緊急登録を余儀なくされました。世界遺産とは単なる華やかな観光メダルではなく、人類が直面する開発と保全の衝突現場そのものなのです。