映画『冷静と情熱のあいだ』のクライマックスは、今なお多くの映画ファンの間で語り継がれています。物語の核心となるのは、学生時代の恋人同士だった阿形順正(あがた じゅんせい)とあおいが交わした「あおいの30歳の誕生日に、フィレンツェのドゥオモ(サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂)のクーポラで会おう」という約束です。
かつて激しく愛し合いながらも、ある過酷な事件と誤解によって引き裂かれたふたり。10年という歳月が流れ、順正はフィレンツェで絵画修復士としての道を歩み、あおいはミラノで実業家マーヴという婚約者を得て何不自由ない洗練された生活を送っていました。しかし、約束の当日、順正が祈るような思いで登ったドゥオモの頂上に、あおいは本当に現れます。
10年ぶりの再会を果たしたふたりは、フィレンツェの街を歩き、かつての空白を埋めるように一夜を共にします。しかし翌朝、あおいは順正に告げます。「私には、帰る場所があるの」と。彼女は現在の生活、そして自分を愛してくれるマーヴのもとへと戻るため、ミラノ行きの列車に乗り込みます。
映画のラストシーンでは、順正が激しい逡巡の末、あおいを追ってフィレンツェ駅へ走り、後発の特急列車に飛び乗ります。そしてミラノ中央駅のプラットホームで、改札へ向かうあおいに追いつくのです。振り返ったあおいと、息を切らして見つめる順正。言葉を交わすことなく、互いに静かな微笑みを浮かべ合う場面で物語は幕を閉じます。
このラストシーンについて、当時の劇場公開特番やパンフレットの監督インタビューにおいて中江功監督は「ふたりが元の鞘に収まるかどうかを断定することではなく、過去の亡霊から解き放たれ、情熱を持って未来へ踏み出す瞬間を描きたかった」という趣旨を明かしています。映画版のラストは、ふたりが過去の清算を終え、対等な個人として新たな関係を紡ぎ始める「情熱」の勝利を象徴する幕切れでした。