SNSや大手Q&Aサイトのコミュニティを調査すると、毎年11月から12月にかけて「去年の残り灯油を使ったけれど問題なく動いた」「捨てるのは環境にも財布にも悪いから使い切った」という個人の体験談が少なからず投稿されています。こうした声を鵜呑みにして給油してしまうユーザーが後を絶ちません。
しかし、石油暖房器具の修理を専門に請け負うサービスエンジニアやアフターサービス部門の現場では、全く正反対の過酷な現実が目撃されています。都内および東北地方で給湯器・暖房器具のメンテナンスを手掛けるサービス業者の証言によると、次のような実態が浮かび上がります。
「毎年シーズンインの11月中旬から12月にかけて入る『ファンヒーターが着火しない』『煙を吐いて止まった』という修理コールのうち、実に6割から7割が持ち越し灯油や変質灯油が原因です。お客様の多くは『去年買った灯油だけど、ポリタンクのフタをしっかり閉めていたから大丈夫だと思った』とおっしゃいます。しかし分解してみると、気化器のニードルバルブが真っ黒なタールで完全に固着しており、内部タンクの底には結露水が泥のように溜まっている。これではどれほど高級なヒーターであっても動きません」
また、現場の技術者は「反射式ストーブ(芯式ストーブ)なら古い灯油でも燃える」というネット上の俗説に対しても強い警鐘を鳴らしています。芯式ストーブは精密なノズルを持たないため、タール分を含んだ灯油でも一見すると着火・燃焼してしまうことがあります。しかし、吸熱・蒸発を担うガラス繊維の燃焼芯にタールがじわじわと染み込んで固まると、芯の上げ下げが物理的にできなくなります。いざ消火しようとしても芯が下がりきらず、火が消せなくなるという緊急消火不能の火災リスクを招くのです。