思想信条の自由の適用限界を正しく理解するうえで、最高裁のリーディングケースとなった3つの重要判例は必読です。
1. 三菱樹脂事件(最高裁大法廷判決 1973年12月12日)
大学卒業時に三菱樹脂の採用面接を受けた原告が、学生運動の経歴を隠して採用された後、試用期間満了時に本採用を拒否(解雇)された事件です。最高裁は、「企業には雇用の自由(誰をどのような条件で雇うかの自由)があり、特定の思想・信条を有する者をそのゆえをもって雇い入れることを拒んでも、憲法上の違法とはいえない」と判示しました。また、採用調査の過程で思想信条に関する事項を調査・申告させることも直ちに違法とはいえないとされ、私人間における憲法の非直接適用を確立した代表例です。
2. 謝罪広告事件(最高裁大法廷判決 1956年7月4日)
名誉毀損に対する民事上の救済手段として、裁判所が加害者に「謝罪広告」の掲載を命じることの合憲性が争われました。最高裁は、単に事態の真相を告白し謝罪の意を表する程度の広告を新聞等に掲載させることは、個人の倫理的・道徳的な良心の自由を強制的に侵すものではなく、不当に内心を屈服させるものでない限り合憲であると判断しました。
3. 君が代起立斉唱訴訟(最高裁第二小法廷判決 2011年5月30日・大法廷判決 2007年2月27日ほか)
卒業式等の式典において、校長からの職務命令に従わず国歌斉唱時に起立しなかった教員らに対する懲戒処分が争われました。最高裁は、式典での起立斉唱命令は「儀礼的な所作を求めるもの」であり、特定の思想を強制したり禁止したりするものではないため、憲法19条に違反しないと判示しました。ただし、停職や免職といった重すぎる不利益処分については、教育的裁量権の逸脱・濫用として一部違法とする個別判断も示されています。