世界中のメディアと映画ファンを騒然とさせた発端は、2023年1月に開催された第80回ゴールデングローブ賞授賞式でした。映画界への多大な貢献を称える「セシル・B・デミル賞(生涯功労賞)」を受賞したエディ・マーフィーは、厳かなスピーチの終盤、後進たちに向けた「成功のための3つの助言」として次のように語りかけました。
「新しく業界に入ってきた若い人たちに伝えたい、成功と長寿のためのシンプルな設計図がある。とても簡単だ。次の3つのことを守るだけでいい。1つ目は税金を払うこと。2つ目は自分の仕事に専念すること。そして3つ目は……ウィル・スミスの妻の名前をその汚い口から一切出さないことだ!」
この発言は、2022年の第94回アカデミー賞授賞式でウィル・スミスがプレゼンターのクリス・ロックを平手打ちし、壇上から「俺の妻の名前を口にするな」と叫んだ前代未聞のトラブルを完璧なタイミングでパロディ化したものでした。会場は割れんばかりの爆笑とスタンディングオベーションに包まれ、授賞式の映像はSNS上で瞬く間に億単位の再生回数を記録しました。
授賞式後のバックステージインタビューでエディ・マーフィーは、記者団の問いかけに対して「すべては愛ゆえのジョークさ。コメディアンとしてあの状況を笑いに変えるのが私の役割だった」と爽やかに回答。悪意による個人攻撃ではなく、スタンドアップコメディ出身の重鎮として、空気が張り詰めていたエンタメ業界のタブーをユーモアで昇華させた瞬間でした。