デジタル空間における意思決定も、物理法則と無縁ではいられない。ソフトウェア工学には「CAP定理」と呼ばれる揺るぎない命題がある。分散システムにおいて、一貫性(Consistency)、可用性(Availability)、分断耐性(Partition tolerance)の3つを同時に満たすことは不可能だという定理だ。
クラウドインフラの巨人であるアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)や、世界規模の配信網を築いたNetflixのアーキテクチャは、この限界を直視した上で設計されている。Netflixは完全なデータ整合性をあえて妥協し、ユーザーが視聴を止めないための可用性を最優先した。画面表示のわずかなズレを許容する代わりに、システム全体のダウンを回避する。完璧主義を捨て、システムが壊れることを前提に組まれたこの大胆な設計思想こそが、結果として世界最強の耐障害性を生み出した皮肉は示唆に富んでいる。