ネット上には「ワンペダルは危険すぎるから全廃すべき」「いや、使いこなせない運転下手な老人の言いがかりだ」といった短絡的な議論が氾濫しています。しかし、事態の本質は個人の運転技量論だけでは片付けられません。工学的・法規的な観点から、一般に流布している誤解を正しておく必要があります。
第1の誤解は「ワンペダル車はブレーキランプが点かないので追突される」という言説です。前述の通り、道路運送車両の保安基準によって減速度1.3m/s²を超える領域では自動点灯が義務化されており、この風説は明確な誤認です。ただし盲点として、「点灯と消灯の境目付近」で微妙なペダル操作を繰り返すと、後続車から見てブレーキランプがチカチカと不自然に点滅して見える現象が生じます。これが後続車のドライバーにイライラや警戒心を抱かせる要因になることは、現場の走行テストでも確認されています。
第2の誤解は「急ブレーキ時もペダルをパッと離せば最大制動が得られる」という思い込みです。これは極めて危険な錯覚と言わざるを得ません。回生ブレーキによる最大減速度は0.2G〜0.3G程度に過ぎず、衝突回避に必要な緊急フルブレーキ(0.8G〜1.0G以上)の3分の1から4分の1程度の制動力しか発生しません。重大事故を回避するためには、油圧ブレーキペダルを床まで蹴り込む必要があります。「ペダルを離したから大丈夫」という油断が、コンマ数秒の空走距離を生み、致命的な追突事故を招く引き金になり得ます。
日産がかつての完全停止型e-Pedalから、現行の「e-Pedal Step」へと制御を変更し、時速8〜10km/h以下であえてクリープを残す仕様へ回帰した背景には、まさにこの「最終停止時には必ずブレーキペダルを踏ませることで、踏み替えの身体記憶を維持させる」という深謀遠慮が存在しています。