感謝の意を格調高く伝えようとするあまり、不自然な敬語や相手を不快にさせる言葉遣いに陥る事例が後を絶ちません。代表的な誤解と盲点を精査していきます。
まず、目上の人に伝える感謝の表現として「ご苦労様でした」を使うのは完全なマナー違反です。本来「ご苦労様」は目上の者が目下の者の労苦をねぎらう言葉であり、上司や取引先に向けた場合は「お疲れ様でした」や「誠にありがとうございました」へと言い換えなければなりません。
さらに混同されがちなのが、感謝申し上げますの正しい使い方と大変恐縮ですの使い分け理由です。「感謝申し上げます」は、相手の純粋な善意や協力に対してストレートに謝意を表す言葉です。これに対し、「大変恐縮です」は「相手に多大な時間・労力・費用を割かせてしまい、身が縮むほど申し訳ない」という感情を内包しています。
ネット上の情報では「ビジネスでは何でも『大変恐縮です』を使えば丁寧になる」という俗説が見受けられますが、これは危険な誤認です。相手が喜んで提供してくれたサポートに対して「恐縮です」を連発すると、感謝の熱量が伝わらず、かえって余計な気遣いをさせてしまう弊害が生じます。「お心遣いに心より感謝申し上げます」と堂々と謝意を示すべき場面と、「お忙しい中ご足労いただき、大変恐縮に存じます」と謙遜を込める場面の峻別が求められます。
また、日本人が無意識に多用する「すみません」という口癖にも注意が必要です。「すみません」は謝罪・感謝・呼びかけを兼ねる便利な言葉ですが、ビジネスシーンで感謝の意として使うと「軽薄で自信のない印象」を与えかねません。「すみません」を「ありがとうございます」と言い換えるだけで、コミュニケーションの品格は大幅に向上します。