『もののけ姫』が他のジブリ作品と一線を画す最大の理由は、時代劇という歴史的枠組みとダークファンタジーの見事な融合にある。蝦夷(エミシ)の村を追われた王子、タタラ場を仕切るエボシ御前、森を守る巨大な神々。中央の権力構造から外れた周縁の人々にスポットを当てることで、従来の娯楽時代劇にはない多層的な人間ドラマを構築した。
善悪の二元論を徹底して回避している点も特徴的だ。自然を破壊する人間も生きるために必死であり、人間を憎む森の神々もまた誇りと怒りに満ちている。どちらか一方を悪と断定できないカオスな世界だからこそ、観客は登場人物たちの葛藤を自身の問題として捉え、物語の深層心理へと深く引き込まれていく。