ネット上で「ロシア語筆記体暗号」として拡散される画像の代表例に、「шиншилла(チンチラ)」や「лишишь(奪うだろう)」といった単語があります。活字体であれば一文字ずつ明確に区別できるこれらの単語が、筆記体になると上下の波線が延々と繰り返される「心電図のような一本の帯」に変貌します。
こうしたロシア語筆記体読めない理由の根底にあるのは、キリル文字特有のストローク構造です。筆記体において「и」「ш」「м」「л」「п」「т」といった頻出文字は、いずれも「下から上に持ち上げて垂直に引き下ろす」という基本エレメント(縦ストロークとU字カーブ)の組み合わせで構成されています。これらが単語内で連続すると、文字と文字の境界(ストロークの切れ目)が視覚的に完全に同化してしまうのです。
さらに、ロシア語の手書き文化ではペンを紙から離さずに一気に書く流麗さが重視されます。その結果、急ぎ書きのメモや医療現場のカルテなどでは個々の文字のカーブが極限まで簡略化され、非ネイティブどころかネイティブの一般市民ですら文脈なしには解読できない「極限の崩し字」が生まれる背景となっています。