映画『かぐや姫の物語』が劇場公開された2013年当時、観客に強烈なインパクトを残したのが、クライマックス手前で描かれる帝とかぐや姫の対峙シーンでした。求婚を受け入れないかぐや姫の背後から帝が忍び寄り、逃げ場を塞ぐように抱きすくめる有名な求婚シークエンスです。
この決定的な瞬間、横顔で捉えられた帝の顎先は、他の登場人物の柔らかな描線とは明らかに一線を画す鋭利な三角形を描いていました。映画公開後、日本テレビ系「金曜ロードショー」などで地上波放送されるたび、視聴者が画面を静止させて計測したキャプチャ画像がネット上に氾濫。「分度器を当てたら30度台だった」「刺突武器レベル」「ドリルとして削岩できそう」といったユーモアあふれる投稿が数万リツイート規模で拡散し、作品を象徴する名物シーンへと昇華していきました。
本来であれば平安朝の最高権力者として威厳と気品を備えているはずの帝が、なぜアニメーション史に残るほどの尖ったフェイスラインで描写されるに至ったのか。単なる作画ミスや悪ふざけではなく、そこには巨匠・高畑勲監督の計算し尽くされた表現哲学が潜んでいました。