野生鳥獣であるカラスに対する餌やりが厳しく禁止される背景には、単なる「糞害が汚い」という感情論を超えた、科学的根拠に基づく生態リスクが存在します。野生動物は本来、自然界に存在する限られた食糧資源の範囲内で個体数を維持しています。しかし、人間が安定的に高カロリーな食糧を供給してしまうと、都市環境における収容可能限界を遥かに超えた過剰繁殖が発生します。
都市鳥類生態学の調査知見によると、日常的な給餌を受けているカラスのグループは、自然環境下で自給自足しているグループと比較して、繁殖期における雛の生存率が大幅に跳ね上がることが確認されています。結果として特定の地域に異常な高密度で個体群が密集し、鳴き声による深刻な騒音被害、電柱や建造物への大量営巣による停電リスク、周辺家屋への執拗な糞尿汚損が引き起こされます。
さらに危険なのが、人間に対する警戒心の完全な喪失です。給餌によって「人間=餌をくれる存在」あるいは「自分たちより下位の存在」と学習したカラスは、春から初夏にかけての繁殖期(抱卵・育雛期)において、巣の近くを通るだけの無関係な歩行者や学童を後頭部から蹴りつけるなど、直接的な物理攻撃を激化させます。善意から始まった給餌が、地域住民の身体的安全を直接脅かす凶器へと転化してしまうのです。