関係者の証言や当時のインタビューによると、『鬼滅の刃』の主要キャストオーディションは業界内でも類を見ない規模で実施され、多くの実力派声優が複数の役を兼ねてエントリーしていました。その中で、上田麗奈が見せた芝居のアプローチは制作陣の耳を即座に引きつけました。
カナヲというキャラクターの最大の特徴は、「自分の意志を持たず、指示されないことはコイントスで決める」という極端な受動性にあります。初期のアフレコ現場では、感情を込めて喋るのではなく「感情を徹底的に排除した平坦さ」と、その奥底に眠る「微かな少女の揺らぎ」を同時に成立させることが求められました。
上田麗奈自身もメディア取材に対し、「カナヲはただ冷たい性格なのではなく、自分を守るために心を閉ざしてしまった子。言葉を発しない時間や、ほんのわずかな息の吸い方にこそ、彼女の無意識の防衛本能が表れるよう意識した」と述懐しています。制作サイドが求めていた「ガラス細工のような繊細さと、鬼殺隊士としての凛とした芯」が、上田の天性の声質と緻密な演技設計に見事に合致した瞬間でした。