この世界的な至宝ともいえるアルサクレイグ島ですが、一時期「個人向けに島ごと売却されるのではないか」と世界中で騒乱が巻き起こった時期がありました。発端は2011年、代々の領主であった第8代エイルサ侯爵(David Kennedy)が、不動産仲介大手ナイト・フランクを通じて島を売りに出したことでした。
提示された初期の売出価格は約250万ポンド(当時の為替レートで約3億〜4億円)。五輪ストーンの原産地が無人島ごと買えるというニュースは、大富豪や海外投資家の注目を集めました。しかし、熱狂的な報道の裏側で、売却交渉は極めて難航することになります。買い手がつかないまま価格は150万ポンドにまで引き下げられ、長期間にわたり売れ残る事態となったのです。
なぜ世界的な知名度を誇る島が買い控えられたのか。その背景には、英国の厳格な土地法規制と過酷な地理的制約が存在していました。
まず島全体が、英国法に基づく「学術研究上重要地域(SSSI:Site of Special Scientific Interest)」および欧州基準の「特別保護地区(SPA)」に指定されています。これにより、島内に高級リゾートホテルや別荘、ヘリポートといった商業施設を建設することは法律で固く禁止されています。さらに島には電気も水道も通っておらず、1886年に建設された歴史的な灯台も1990年にノーザン・ライトハウス・ボード(NLB)によって完全無人化・自動化されており、居住インフラは皆無でした。
「島を買っても住むことも開発することもできず、巨額の維持管理費と法規制だけが降りかかる」――これが投資物件としてのシビアな現実でした。結果として、独占採石権を持つカイズ社との長期採石契約はそのまま維持され、自然保護団体との協調体制が敷かれることとなりました。現在、アルサクレイグ島の自然環境管理は英国最大の自然保護慈善団体である英国王立鳥類保護協会(RSPB)が主導しており、生態系を乱さない形での厳重な保全活動が継続されています。