陸奥A子先生の足跡を語る上で欠かせないのが、1970年代中盤から後半にかけて巻き起こった「乙女ちっく」ブームです。大事件や激しい愛憎劇ではなく、放課後の教室、手編みのマフラー、喫茶店のココア、憧れの先輩といった身近な日常を抒情的に描き、少女漫画の表現領域を大きく広げました。
数ある名作群の中でも、特に押さえておきたい代表作は以下の作品です。
『たそがれ時に見つけたの』(1975年)は、陸奥ワールドの代名詞とも言える初期の傑作。繊細な心の揺れ動きと詩的なモノローグが読者の共感を呼びました。続く『粉雪ポルカ』(1976年)や『樫の木陰でお昼寝すれば』(1977年)では、四季折々の美しい風景描写と優しい人間関係が温かな筆致で紡がれています。
また、『すきになったひと』や『こんぺいとうの降る町』など、短編・中編の名作はいずれも「読んだ後に心がほんのり温かくなる」独特の読後感を持ち、現在も文庫版や電子コミックで読み継がれています。当時のふろく文化を彩った可愛らしいイラストグッズも、少女たちの宝物として記憶に深く刻まれています。