長年メディアの取材を断り続けてきた薬院の隠れ家割烹へ、特別な許可を得て潜入した。地元財界人や食通たちが夜な夜な集うこの店で提供されるのは、華美な盛り付けを排した純粋な旨味の塊だ。厨房で目撃したのは、玄界灘で獲れた天然魚を氷温で寝かせ、アミノ酸のピークを秒単位で見極める職人の鬼気迫る姿だった。
門外不出とされてきた出汁の配合表には、長崎県産アゴ(トビウオ)の焼き干しと、大分県産の原木干し椎茸、そして創業時から継ぎ足されてきた熟成醤油の比率が記されていた。火入れの温度は決して85度を超えさせない。この繊細極まりない温度管理こそが、舌に乗せた瞬間に広がる芳醇なコクと、喉を通り過ぎた後の清涼な余韻を生み出す秘密だ。本場が誇る味の神髄は、妥協を許さない狂気的なまでのこだわりの中に宿っていた。