2016年11月に放送されたNHKスペシャル『終わらない人 宮崎駿』において、視聴者に最も強い衝撃を与えたのが、当時スタジオジブリのプロデューサー見習いでもあったドワンゴの川上量生氏らによる人工知能(AI)技術のプレゼンテーション場面でした。短編アニメ『毛虫のボロ』で初のCG導入に挑んでいた宮崎監督に対し、開発チームはディープラーニングを用いたCGアニメーションの実験映像を披露したのです。
提示された映像は、痛覚を持たないAIが物理演算を繰り返す中で生み出した、頭部を足のように使って異様な動きで這いずり回る人型のクリーチャーでした。「人間には思いつかないグロテスクな動きをAIが自発的に獲得した」「ゾンビゲームの動きなどに使える」と意気揚々と語る開発者たちに対し、宮崎監督は静かにタバコを揉み消し、重い口を開きました。
「毎朝、身体障害者の友人に会う。ハイタッチするだけでも大変なんだ。その彼の手が筋肉が強張ってカチカチになっているのを思い出す。僕はこのもの(映像)を面白いと思って見ることができない」
監督は真っ直ぐに開発者たちを見据え、言葉を続けました。「これを作る人たちは、痛覚とかそういうものに何も考えが及んでいない」「極めて不愉快ですよね。そんなに気持ち悪いものをやりたいなら勝手にやってればいいだけで、僕はここへそんなものを持ち込んでほしくない」「生命に対する侮辱を感じます」と、一切の妥協なく断じたのです。
川上氏が「これは実験なので…」と弁明する中、重苦しい沈黙が広がり、鈴木敏夫プロデューサーが「どこを目指しているの?」と問いかける場面で映像は締めくくられました。この一連のやり取りは、単なる最新技術への拒絶反応ではありません。「人間の痛み」や「身体性への共感」を介さない表現を、エンターテインメントとして消費しようとするテクノロジー側の無神経さに対する、表現者としての根源的な怒りでした。