昼下がりの桜木町駅を降り、地下直結の「ぴおシティ」地下2階へ足を踏み入れると、そこには異次元の熱気が渦巻いています。平日でも15時前後には名物店「風来坊」や立ち飲み酒場「国民酒場あさひや」などのカウンターが埋まり始め、週末ともなれば12時の開店と同時に満席となる店舗が珍しくありません。SNS上では「ぴおシティは飲むアミューズメントパーク」「1,500円あれば生ビールと刺身と名物ハムカツで昇天できる」といった投稿が日々飛び交っています。
地上へ上がると、空気を満たすのは炭火の香ばしい煙です。特に野毛町 焼き鳥 名店として知られる老舗「末広」の前には、開店前から焼き上がりを待つ熱心なファンの列ができます。大ぶりで鮮度抜群のモツ焼きや、絶妙な塩加減のレバーを目当てに遠方から通い詰める常連客は、「この煙の匂いを嗅ぐだけで日々のストレスが吹き飛ぶ。気取らない店主との掛け合いこそが野毛の醍醐味」と口を揃えます。
一方で、近年の過熱ぶりに対する現場の戸惑いも取材から浮かび上がってきました。現地で40年以上バーを営むマスターは、苦笑いを浮かべながら次のように語ります。
「若い人や海外の方が来てくれるのは本当にありがたい。街が死なずに済んでいるのは彼らのおかげでもある。ただ、5〜6人の大集団で押し寄せて大声で騒いだり、1杯のウーロンハイで何時間も席を占領したりするケースが散見されるのも事実。この街の基本は『譲り合い』と『サクッと飲んで席を空ける江戸前の美学』。そこだけは忘れないでほしいね」
SNSや口コミサイトの絶賛評価の裏には、狭小な空間を共有するための暗黙のルールと、それを守ることで成り立っている繊細な地域コミュニティの存在があります。