切り絵画家・久保修が遺した珠玉の作品群と独自の技法とは何だったのか。「紙のジャポニスム」と絶賛された背景には、伝統的な切り絵の枠組みを根底から拡張した技術的ブレイクスルーが存在します。黒い紙を切り抜いて白い台紙に貼るという従来の二次元的モノトーン表現にとどまらず、久保は建築学で培った精緻な透視図法とミクストメディア(混合技法)を融合させました。
その制作工程は驚くほど緻密です。輪郭線となる黒い紙をデザインナイフ一本でミリ単位の狂いもなく切り進める一方で、裏側から何層もの手漉き和紙を貼り重ね、厚みや光の透過度をコントロールします。さらに、色彩の深みを出すためにパステルをぼかし入れ、アクリル絵の具で微細な質感を付与。時には細かな砂や布地まで画面に定着させることで、切り絵でありながら重厚な絵画的リアリティと立体的な陰影を共存させました。
2009年、文化庁の文化交流使に指名された久保は、アメリカ・ニューヨークを皮切りにウクライナ、ロシア、スペインなど世界各国で展覧会やワークショップを開催。現地のメディアや美術批評家は、日本の伝統素材である和紙の風合いを活かしつつ現代的な光と影を描き出すその作風を「紙のジャポニスム(Paper Japonisme)」と評し、単なる工芸の領域を超えた現代アートとして喝采を送りました。